今回はスモウルビーそのものを改良するときのやり方を説明します。開発するのは、Rubyのプログラムをスモウルビーのブロックに変換する機能です。
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半年ぶりのスモウルビーの開発は難しかった…。
やりたいことは、MADR「 self.whenからself.を取り除いたRubyの命令を検討する 」で決めた、イベントブロックと when_%event_type%(%args%)
との相互変換です。
しかし、
- なにから手を付けたらいいんだっけ?
- テストはどうやっていたんだっけ?
- 動作確認はどうするんだっけ?
と、疑問だらけ。
少しずつ思い出しながら進めていますが、近い将来の自分のために、開発のためのドキュメントを残しておこうと思います。
やりたいこと: Rubyのプログラムをスモウルビーのブロックに変換する
今回は、Ruby の命令 when_flag_clicked do ~ end
を、イベントブロック フラグが押されたとき
に変換できるようにします。
なにはともあれ最終的な修正内容をざっと見てください。これでだいたい何をするのか、わかると思います。
それでは、チュートリアル形式でスモウルビーそのものの開発方法を説明していきます。
準備
Rubyのプログラムをスモウルビーのブロックに変換する処理は、ブロックのカテゴリごとにファイルを分けて実装しています。今回は、イベントカテゴリなので修正するのは次のファイルです。
- テスト
- 実装
他のカテゴリもファイル名からどのファイルに実装されているのか推測できると思います。基本的なブロックだけでなく、拡張機能のものも同じところにあります。
まずは常にテストを実行できる状態にします (smalruby3-developレポジトリを利用して、Dockerを使って開発しています) 。
docker-compose run --rm gui bash -c "\$(npm bin)/jest --watch"
しばらくして以下のように表示されたら準備完了です。
No tests found related to files changed since last commit.
Press `a` to run all tests, or run Jest with `--watchAll`.
Watch Usage
› Press a to run all tests.
› Press p to filter by a filename regex pattern.
› Press t to filter by a test name regex pattern.
› Press q to quit watch mode.
› Press Enter to trigger a test run.
テストの実装
つぎにテストを作ります。先に変換処理を実装してもいいのですが、動作確認でブラウザを操作するのが手間なのと、テストを後で実装するとなると面倒くさくなります。私は先にテストから書くことをオススメします。
smalruby3-gui/test/unit/lib/ruby-to-blocks-converter/event.test.js を修正します。
以下が今回の修正対象のテストです。テストは jest を使っています。
describe('event_whenflagclicked', () => {
test('normal', () => {
修正前は以下のようになっていました。
code = 'self.when(:flag_clicked) { bounce_if_on_edge }'; // (1)
expected = [ // (2)
{
opcode: 'event_whenflagclicked',
next: {
opcode: 'motion_ifonedgebounce'
}
}
];
convertAndExpectToEqualBlocks(converter, target, code, expected); // (3)
- (1) 変換対象のRubyのプログラムを code 変数に代入する
- (2) 変換結果のスモウルビーのブロック (を表現したデータ) を expected 変数に代入する
- (3) 実際にチェックする
- convertAndExpectToEqualBlocks がうまいことやってくれる
単純に修正するだけならテストは以下のように修正すればOKです。
code = 'when_flag_clicked { bounce_if_on_edge }' // 修正したのはここだけ
expected = [
{
opcode: 'event_whenflagclicked',
next: {
opcode: 'motion_ifonedgebounce'
}
}
];
convertAndExpectToEqualBlocks(converter, target, code, expected);
実際には、 self.when
もこれまでと同じように変換できることを確認しておきたいため、以下のように修正しました。ついでに、いくつかのパターンも追加しています。
expected = [
{
opcode: 'event_whenflagclicked',
next: {
opcode: 'motion_ifonedgebounce'
}
}
];
[
'self.when(:flag_clicked) { bounce_if_on_edge }',
'when_flag_clicked { bounce_if_on_edge }',
'when_flag_clicked() { bounce_if_on_edge }', // ()を省略しない場合
'self.when_flag_clicked { bounce_if_on_edge }' // self.を省略しない場合
].forEach(s => {
convertAndExpectToEqualBlocks(converter, target, s, expected);
});
これを保存すると、自動的にテストが実行されて以下のようなエラーになります。実際には色付けされていて、エラーは赤色で表示されるのでわかりやすいです。 jest はとても親切ですね。
FAIL test/unit/lib/ruby-to-blocks-converter/event.test.js (26.179s)
● RubyToBlocksConverter/Event › event_whenflagclicked › normal
expect(received).toHaveLength(length)
Expected value to have length:
0
Received:
[{"column": 0, "row": 0, "source": "when_flag_clicked", "text": "\"{SOURCE}\" is the wrong instruction.", "type": "error"}]
received.length:
1
at convertAndExpectToEqualBlocks (test/helpers/expect-to-equal-blocks.js:229:28)
at test/unit/lib/ruby-to-blocks-converter/event.test.js:38:64
at Array.forEach (<anonymous>)
at Object.<anonymous> (test/unit/lib/ruby-to-blocks-converter/event.test.js:37:7)
at new Promise (<anonymous>)
at processTicksAndRejections (internal/process/task_queues.js:95:5)
変換処理の実装
つぎに変換処理を実装します。
smalruby3-gui/src/lib/ruby-to-blocks-converter/event.js を修正します。
今回は「send(メソッド呼び出し)」という種類のRubyの命令を変換するため、 onSend
を修正します。
onSend: function (receiver, name, args, rubyBlockArgs, rubyBlock) {
メソッド呼び出しのレシーバーが self
か、未指定 (スモウルビーでは Opal.nil
) のどちらかであることをチェックして、
} else if (this._isSelf(receiver) || receiver === Opal.nil) {
さらに以下のチェックをして、
- メソッド名が
when_flag_clicked
であること - 引数が指定されていないこと
- ブロック引数が指定されていること
- ブロック変数 (ブロックパラメーター) が指定されていないこと
switch (name) {
// 省略
case 'when_flag_clicked':
if (args.length == 0 && rubyBlockArgs && rubyBlockArgs.length === 0 && rubyBlock) {
ようやくブロックを作る処理です。ブロック名 event_whenflagclicked
とブロックの形状 hat
を指定します。
block = this._createBlock('event_whenflagclicked', 'hat');
さらに、作ったブロックの中にRubyのブロック引数で指定した処理を入れるために、それを Ruby からブロックに変換したもの (rubyBlock) との親子関係を指定します。
this._setParent(rubyBlock, block);
これで変換処理ができました。
保存すると、テストが自動的に実行されて、以下のような結果が表示されるはずです。
PASS test/unit/lib/ruby-to-blocks-converter/event.test.js
RubyToBlocksConverter/Event
event_whenflagclicked
✓ normal (71ms)
✓ hat (26ms)
✓ invalid (24ms)
✓ error (10ms)
(省略)
Test Suites: 1 passed, 1 total
Tests: 34 passed, 34 total
Snapshots: 0 total
Time: 6.602s
スモウルビーのベースとしている Scratch の scratch-gui にはプログラミング言語からの変換処理はありません。そのため、独自に開発する必要がありました。仕組みを考えて、実際に動くようにするまでは大変でしたが、こうしてみるとよくできていますね。
なお、 event_whenflagclicked
のようにRubyの命令に対応するスモウルビーのブロックの名前を知っていないといけないのですが、それらは scratch-blocks の scratch-blocks/blocks_vertical/ に記述されています。
今回のものは scratch-blocks/blocks_vertical/event.js:73行目 に記述されています。
Blockly.Blocks['event_whenflagclicked'] = {
/**
* Block for when flag clicked.
* @this Blockly.Block
*/
init: function() {
this.jsonInit({
"id": "event_whenflagclicked", // ブロックの名前
"message0": Blockly.Msg.EVENT_WHENFLAGCLICKED,
"args0": [
{
"type": "field_image",
"src": Blockly.mainWorkspace.options.pathToMedia + "green-flag.svg",
"width": 24,
"height": 24,
"alt": "flag"
}
],
"category": Blockly.Categories.event,
"extensions": ["colours_event", "shape_hat"] // ブロックの形状は hat
});
}
};
これらのファイルには開発で使う様々な情報が記述されています。例えば、イベントブロック [スペース▼]キーが押されたとき
は、以下のように記述されていて、 [スペース▼]
の名前が KEY_OPTION
であるということがわかります。
scratch-blocks/blocks_vertical/event.js:265行目
Blockly.Blocks['event_whenkeypressed'] = {
/**
* Block to send a broadcast.
* @this Blockly.Block
*/
init: function() {
this.jsonInit({
"id": "event_whenkeypressed",
"message0": Blockly.Msg.EVENT_WHENKEYPRESSED,
"args0": [
{
"type": "field_dropdown",
"name": "KEY_OPTION", // [スペース▼]の名前
"options": [
[Blockly.Msg.EVENT_WHENKEYPRESSED_SPACE, 'space'],
// 省略
['9', '9']
]
}
],
"category": Blockly.Categories.event,
"extensions": ["colours_event", "shape_hat"]
});
}
};
また、 hat
のようなブロックの形状には次のものがあります。
- statement:
(10) 歩動かす
のように上下にブロックをつけられるもの - hat:
フラグを押されたとき
のように下にのみブロックをつけられるもの - terminate:
[すべてを止める▼]
のように上にのみブロックをつけられるもの - value:
x座標
のような値を表すもの - value_boolean:
(マウスポインター▼)に触れた
のような、はい/いいえの真偽値を表すもの- 一部バグ で
boolean
を指定しているものがありますが、正しくはvalue_booleanです。
- 一部バグ で
修正ができたら、コミットしてpushします。コミットメッセージは commitlint に従うようにします。手元で npm install してあれば husky 経由で手元でコミットするときにチェックしてくれるので安心です。
あとはPRを作成してレビューしてマージです。このとき Circle CIによる自動テスト がパスすることもチェックしてくださいね。
これでRubyのプログラム when_flag_clicked do ~ end
をスモウルビーのブロック フラグが押されたとき
に変換することができるようになりました。
まとめ
まとめます。
Rubyのプログラムをスモウルビーのブロックに変換する処理は、
jest --watch
を実行してテストを実行する準備をする- smalruby3-gui/test/unit/lib/ruby-to-blocks-converter/ にテストを実装する
- smalruby3-gui/src/lib/ruby-to-blocks-converter/ に変換処理を実装する
- コミットしてpush、PRを作成する
- Circle CIが通ればマージする
という流れで実装します。
協力者の募集
スモウルビーの拡張機能のブロックは、Rubyのプログラムからスモウルビーのブロックに変換できないものがあります。理由は私の作業時間が取れないからです。そのため、スモウルビーにご協力いただける方を常に募集しています。
ご協力いただける方は、 contact@smalruby.jp までご連絡いただいてもいいですし、連絡なしで「xxx のブロックに対応しました」というPRを作成してもらってもかまいません。むしろその方が好都合です。
日本中の小・中学生が学校の授業や地域のプログラミング教室でスモウルビーを使っています。みなさんのご協力で、たくさんの子どもたちがハッピーになります。ご協力、よろしくお願いします。